吾輩は作曲する猫である。

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作曲のプロセス〜私の場合

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「作曲ができるなんて、才能がおありなんですね」
というお声がけをいただくことがある。

この言葉に私は、お褒めの言葉として基本的には好意的に受け取りつつ、それと同時に何か少し突き放されているような感覚を持つ。

音楽を実際に作り、教えていると、「作曲とは必ずしも才能のみの賜物ではない」ということがわかるからだ。

 

才能のみが大切であれば、私のような凡人には作曲はできないであろう。
才能のみが大切であれば、教育にできることはないはずである。

 

もっとも、作曲という行為に、ある程度の神秘性を感じる人が多いのは事実かもしれない。

イメージとして、雷に打たれたような一瞬のひらめきによって、ピアノや五線紙に向かい、一心不乱に作りあげる…そんな感覚はあるだろう。
現に私自身も、作曲する前までは少なからずそう見ていた。

 

そこで、私自身の作曲のプロセスをまとめてみたいと思う。
世界中の作曲家たちが、まったく同じ方法で作曲するわけではもちろんないが、何人かの現役作曲家にも共感を得た内容なので、当たらずとも遠からずな面も多々あるかと思う。

 

設計図を作る


私はほとんどの場合、まず作品のコンセプトや構成を盛り込んだ設計図を作成する。

形式を決め、拍子や調性、主題の性格、響きやムード、長さなどを一覧表にまとめる。
推移部分には転調へのプランを、展開部では何を展開させるか、そして内包するイメージや場面など、現時点でのアイデアをなるべく精細に、言葉で書き込む。

 

言葉にできるということは「意識化」、「概念化」、「具体化」などができているということなので、言葉にすることは大切だと思う。

 

メモやスケッチをとる


次に、私は音符でメモやスケッチをとることにしているが、この段階こそ、作曲の過程において本質的・核心的な部分だと思っている。

 

まずメモだが、それは内なる霊感(思いつきともいえる)に頼る部分が大きく、主題やその取り扱い、知識や技法の適用、響きの想像などを、ほぼ反射的、本能的におこなっていく。
先ほどの設計図をもとに、部分ごとの主題や展開方法などをメモっていく。

 

ここではやはり"インスピレーション"と"技法の基盤"が頼りになる。

少し話が脱線するが、"インスピレーション"とは多分に"経験値"のことだと思っているので、聴いたり作ったりしてきた経験がここで"インスピレーション"という無意識的な回想によって引き起こされる。
そういう意味において反射的、本能的である。
「おお、神よ!」という懇願に対して答えてくれる"奇跡"の正体は単に"無意識の階層に眠る自分の記憶"ではないだろうか。

 

同時に"技法の基盤"は行き詰まった時の解決法を提案してくれる"ツールの入った引き出し"のようなものだと思っている。

また、イメージを大切にしつつも、新たに学んだことや、未知の技法への実験や挑戦をおこなうこともある。

 

「反射的」と書いたのは、スピードもまた、大切だからである。
着想は、ともすれば逃げだしていったり、あまりにもこねくり回すと原型や魅力を失ったりする。
早い決断が必ずしもいい結果を生むとは限らないが、とにかくまず決断して前に進むことが大切だと思う。
検討・検証は、後からじっくりすればいいかなぁと。

 

次にスケッチですが、大方4声体で書くと決めている。
これは吹奏楽の世界では押しも押されぬ有名作曲家である酒井格さんに教わり、実践している。
同じく吹奏楽作品で有名な保科洋さんは、Saxophone四重奏をまず書いて、スケッチとするそうだ。

すべての響きは4つの声部で表わせると言う。
ただ、リズムパートを書き込んだり、パッシングフレーズを入れたり、どうしても薄くしたり厚くしたい部分では、もちろん声部の数に変化がある。

 

オーケストレーションと精査


スケッチが完成すれば、作曲は少なくとも8割は完成したのと同じである。
スケッチにはある程度のオーケストレーションも含まれているので、あとはスコアに写し、肉づけをしていく。

この段階での悩みは、声部と楽器の音域に気を配ること。
欲しい音色と音域が一致しないことも多々ある。
その場合はかなり悩んでしまう。

 

またオーケストレーションにおいては「合成音」という考え方もある。
幸い管楽器出身で、弦楽器も少しかじったので、それがかなりの力になっていると思う。

 

そして完成したものを拡大・縮小したり、足し算・引き算したり、間違いを探して修正したりする。

 

最後にレイアウトを整える。

もちろん、歌ものだったり短い曲なら、いくつかの行程を端折ったり、頭の中だけで処理したりもする。

 

以上、私の作曲のプロセスの紹介でした。